研究会:囲碁のルールについて簡単に教えていただけますか?
桝:囲碁のルールはとてもシンプルなんです。最初に覚えるルールは5つだけです。
1:線と線が交わった交点に石を置く。黒から先に打ち、次に白、黒と交互に1回ずつ置いていく。そして一度置いた石を動かすことはできない。 2:囲碁は陣地を取るゲーム。より広い陣地をとったほうが勝ち。 3:相手の石の周囲を囲んで、出口をふさいだらその石を取ることができる。 4:取った石の跡に石を置いてはいけない。 5:特殊ルール 4の例外。その場所に置くことで石が取れる場合は置いてもいい。 しかしそれはその次に相手も同じことができるので永久に続く「劫(コウ)」となり、決着はつかない。研究会:将棋だと駒に漢字が書いてあって、一つ一つの駒の動かし方が違うので、それを最初に覚えなければゲームができませんが、囲碁にはそれがなくて簡単な気がします。
桝:そうなんです。囲碁は黒と白の石で陣地を取り合うというわかりやすいルールで、入口は非常にシンプルです。だから世界的に見ると将棋よりも囲碁人口の方が多いんですよ。でも学べば学ぶほど奥が広く、深い。だからこそ面白いんですね。
研究会:テレビゲームなどと囲碁の違うところは何ですか?
桝:人と人が対面して行うゲームだということでしょうか。囲碁は「手談」といって、石を置く手と手で会話をするんですね。一手一手に全部意味があるんです。相手の意思や心理状態もその手から読み取れるんです。
研究会:手によるコミュニケーションですか。
桝:最近はインターネットを通してパソコンで囲碁をすることも多いのですが、やはり生身の相手と顔を合わせて打つのが一番面白い。光を発する装置で脳の血流を調べる「光トポグラフィー検査」というのがあるんですが、それで碁を打っている人の脳の活動を調べると、前頭葉に血流が集中して活発になっているのがわかるそうです。さらに人間対コンピューターよりも人間対人間の時に、より活性化しているそうです。相手の表情や心理を読もうとするからでしょうか。
研究会:打っている時に、脳に血が巡っているという実感はありますか。
桝:ありますよ。脳にグーッと血が集中してるなあっていう実感。今すごく脳みそ使ってるんだなって感じます(笑)。心臓がバクバクしたり。普段の生活でこんなにドキドキすることはあまりないですものね。
研究会:集中力がないとできないゲームですね。
桝:というより、いやでも集中してしまうんです。囲碁って、これが正解というのがない自由なゲームなんですね。極端ですがどう打ってもいいんです。でも逆に言えば自分自身でものすごく考えなくてはいけない。真剣に考えて打つと1局に1時間から3時間かかることもあります。その間ずっと碁盤に集中しているわけです。
研究会:そういう集中力は日常生活にも役立つことが多いのではないでしょうか。
桝:私などは「碁的」の締切が迫ると、寝ることも食べることも忘れて仕事に没頭してしまいますが、それに耐えられるのは囲碁のおかげかもしれませんね。
研究会:テレビで囲碁番組などを見ていますと、解説の人が盤面の石を全部取ってしまってまた最初から並べ直したりするじゃないですか。すごい記憶力だと驚きます。
桝:あ、それはプロならわけもないことです(笑)。プロ棋士の中には10年以上前の対局を最初から最後まで全部覚えていて最初から並べることができる方もいます。
研究会:すごい!
桝:それだけ集中して考えていた、ということですね。プロでない私たちでも、対局直後なら最初から再現することができます。人が打った碁でも覚えているものです。
研究会:どうやって覚えるのですか?
桝:覚えようとしているわけではなく結果として覚えている・・・1手1手に会話のような意味があるからかもしれません。記憶できるかどうかは自分がその手を打つのにどれだけ考えたかによると思います。だから疲れていたりして、囲碁に身が入っていないときは覚えてないんです。
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