研究会:アスリートには怪我がつきものなんですね。
鈴木:現役時代はちょっとした怪我など、あって当たり前でしたね。競技に100%健康体で出られる人は実はあまりいないんですよ。どこか痛めている選手がほとんどです。それをどのようにベストパフォーマンスに持っていけるかが勝負なんです。
研究会:そのようなハードな運動後のケアはどのようになさっていましたか?
鈴木:アイシングは必ずしましたね。
研究会:アイシングとは冷やすことですね。でもそんなに長くプールに入っていると体は冷え切っているように思うのですが、そうではないんですね。
鈴木:体全体を冷やすのではなく、動かした膝とか肩とか部分を冷やします。使った関節や筋肉の炎症を抑えることが必要なのです。
研究会:そのほかにどんなアフターケアを?
鈴木:ストレッチを十分に行います。それからお風呂の中などで手足をブラブラ振るのも効果的でした。水の圧力も適度にあって、むくみにはかなり効きます。それでも追い付かないほど疲れている場合はマッサージですね。
研究会:無呼吸で運動すると、筋肉に乳酸などもたまりやすいんですね。血管を広げて血流を良くしてあげるのがいいかもしれませんね。血管を広げて血流を良くすると言われている一酸化窒素が今話題になっています。冷えた体も温まりやすいそうです。
鈴木:現役時代に知っておきたかったですね(笑)。
研究会:筋トレもするんですか?
鈴木:疲れにくい体のため、また怪我をしないための筋力をつけるトレーニングもよくしました。
研究会:シンクロならではの筋トレってあるんでしょうか。
鈴木:とくにシンクロには、しなやかな筋肉が必要なんですね。だから一般的なウェイトトレーニングだけでなく、自分の体を使った体幹トレーニングとか、オリジナルメニューもたくさんありました。
研究会:それはコーチがつくんですか。
鈴木:国立スポーツ科学センターで個々の要素を科学的に分析してそれぞれにあったトレーニングをアドバイスしていただきました。たとえばシンクロで人を飛ばすようなアクロバティックなパフォーマンスをするには、こういう動きが必要なのでそれにはどういう力が必要で、それに合ったトレーニングはどういうものか、というように細かい分析をしてくれるのです。
研究会:そのようにして作ったシンクロ選手の筋肉は一般の人とはどういうふうに違うんですか?
鈴木:現役時代は起きているときの大半を水の中で過ごしていましたから、水の中では何時間動いても平気なんですが、陸上では5分とか10分歩いただけで疲れて大変でした。
研究会:水中生活用に筋肉が変化していた・・・宇宙飛行士みたいですね(笑)。ではハイヒールを履いて満員電車で通勤するなんてことはできなかったですね。
鈴木:はい。当時、記者会見などでちょっとヒールのある靴を履いて歩くだけでも大変でした。普通の方が水の中に入るのはちょっとしんどい、というのと逆ですね。
研究会:たとえば今いる大手町から東京駅までの移動、選べるとしたらどうします?
鈴木:間違いなく泳ぐ方を選びます(爆笑)。
研究会:プールの水に入っているというのはお肌にとってはどうなんでしょうか。
鈴木:プールの水は塩素が強いので肌が荒れがちになります。プールから上がったらシャワーを浴びてすぐに化粧水や保湿クリームをつけないと粉が吹くような肌になっていました。
研究会:演技中のメイクは水中で落ちないような特別なものですか?
鈴木:化粧品は皆さんが普段使っている物とまったく同じものです。ウォータープルーフタイプを使って、アイラインなどはちょっと濃いめにしているだけでした。
研究会:ヘアスタイルもキュッとまとめて少しも乱れないですよね。
鈴木:あれはゼラチンを表面に塗っているのです。
研究会:ゼラチンって食べるゼリーですか?
鈴木:はい、「ゼリーのもと」として売っているものと同じです。あれをお湯で溶いて、熱いうちに、セットした髪に塗るんです。すると冷えてから固まるので水の中に入っても全く乱れません。ヘアスプレイよりもずっといいですよ。落とすときは熱いお湯でないと落ちませんが。
研究会:それで髪の毛は傷まないのですか?
鈴木:ゼラチンはコラーゲンのもとになるものなので、逆に髪の毛の保湿にもなるそうですよ。
研究会:へえ、いいこと聞いた。
鈴木:あ、でも普段に使わないほうがいいですよ! カッチカチになりますから(笑)。
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