シトルリンはアミノ酸の一種で、1930年に、日本でスイカから発見されました。
シトルリンという名前はスイカの学名Citrullus vulgaris(シトルラス ブルガリス)から名づけられたものです。シトルリンはスイカの原種といわれているカラハリ砂漠の野生スイカに多く含まれており、光が強く乾燥した過酷な環境で生きていくのに重要な役割を果たしている成分だと考えられています。
スイカの原種とされカラハリ砂漠に自生する野生スイカは、日本のスイカとはずいぶん違っています。一番の違いはその味です。野生スイカは日本のスイカのような甘味はありません。実も小さく、果肉も赤くありません。
カラハリ砂漠で暮らす狩猟牧畜民族サンの人々は、この野生スイカを飲み水や料理用の水、体を洗う洗浄水として利用しています。また、人間だけでなくヤギやロバ、犬までもが野生スイカで水分補給しているといいます。この野生スイカが、砂漠という厳しい自然の中で生き抜くことができるのはシトルリンを多く含んでいるから。
カラハリ砂漠の野生スイカは、過酷な乾燥・強光ストレス下においても旺盛に生育し、生命力の強い植物です。カラハリ砂漠に住む砂漠の原住民と呼ばれるサン族(ブッシュマン)は、野生スイカの実を「砂漠の水がめ」と呼び、これを収穫・備蓄して、その果汁を飲料水や入浴用水・赤ちゃんの産湯などに用いています。
通常の植物は、水が無い状態で強い太陽の光にさらされると、毒性の強い活性酸素を多量に発生し枯れてしまいます。しかし野生スイカは葉の部分にシトルリンを蓄積することで自分を守っています。このように野生スイカにとって、砂漠の強烈な環境ストレスに耐えうるためにシトルリンを生成することはとても重要なのです。
野生スイカは、強い光から身を守る能力と、水分を保つ能力に驚異的に優れています。特に強光に対する耐性は他植物に比べ非常に高く、野生スイカが活性酸素の処理に優れていることを伺わせます。
研究者の間では、このシトルリンを野生スイカ以外の植物にも増加させ、深刻な問題となっている砂漠化を食い止めようという研究が進められているそうです。将来、シトルリンが温暖化や自然破壊などから地球を守る重要な切り札となる日がくるかもしれません。
*写真提供 奈良先端科学技術大学院大学 明石欣也先生